
世古の家
計画地の伊勢市古市町は、外宮と内宮を結ぶ参宮街道沿いにあり江戸時代より遊郭や旅館が栄え歓楽街としてにぎわっていた。
参宮街道に対して細く伸びる「世古」は伊勢市特有の細い道で、かつて向かいの住人たちの生活の場としてコミュニティの単位となっていた。
家族は、その古市の風景を引き継ぐようにリノベーションを選択し、知人から受け継いだ古い家に新たな暮らしを重ねることとした。
私たちは、時代とともに風化していくかつての風景をリノベーションという手段で出来るだけ残し、新たに家族が古市の風景をつくり出すことを目指した。
受け継いだ家は各室がコンパクトに構成され、居間として使われていた部分は、和室と建具によって三室に仕切られていた。
建具を撤去して広間を計画したが、思うほどの広がりは得られず、既存の三室の形跡が不自然に残ってしまう。
そこで、古市の「世古」に着目し、三室の形跡を残しながら空間を緩やかにつなぐ手がかりとして考えた。
既存の三室には新たに「夫婦共通の趣味である読書の間」「キッチンと繋がった生活の中心の間」「友達や子供と遊んだりくつろいだりする間」の用途を与えてその間に「世古」という空間を介在させた。
「世古」は、隣接する空間の床の高さを変化させることで、ベンチやテーブル、小上がりとして利用でき、通路でありながら多様な使い方を誘発する。
またレースカーテンを用いて空間の関係性を調整し、高さによってレースカーテンの透過率を変化させることで立つと気配を感じ、座ると個の空間に切り離される。
こうして「世古」を介した三つの空間は生活に応じて独立し、ときには緩やかにつながり合い家族の距離感を調整する場となる。
かつて住人を支えた「世古」は、家族の暮らしの中で間取りとして再構築され、風化していく文化や風景をつなぎとめていく。
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